こんにちは。上杉惠理子です。
最近、お芝居やミュージカルの観劇熱が加速している上杉です。プライベート資金はチケット代に注ぎ込んでいる気がする爆
2025年9月最初の三連休は、こちらの舞台を見てきました。
佐藤正和ひとり芝居
懐かしき、未来 ーa nostalgic futureー

このブログでも何度か書いているのですが、ここ数年、下北沢を拠点とする劇団ゴツプロ!の舞台にハマっています。男性6人の劇団で、メンバーのほとんどが現在50代。小劇場の芝居には難解だったり重く暗い作品も多いと思うのですが、ゴツプロ!の作品はどれもエンタメとして楽しめて、彼らのちょうどいい暑苦しさにいつも体温を上げてもらっています。
過去に見たゴツプロ!作品の感想記事をいくつか置いておきます。



おかげさまで街の中央にある本多劇場だけでなく、オフオフ、劇、スズナリ、シアター711、小劇場B1と本多グループも制覇しつつあります。下北沢、素敵な街だわ〜〜
そのゴツプロ!メンバーの佐藤正和さんが、55歳にして初めてひとり芝居に挑戦したのが今回の『懐かしき、未来』です。パンフレットのあらすじはこちら。
私にとっても初のひとり芝居。
ひとり芝居は演劇の中でも別ジャンルだそうです。上演中、観客はその役者ひとりを見続けることになるので、役者としては一瞬も気が抜けない。何より出演者間の関係性を見せるのが演劇の醍醐味なのに、相手がいない。照明や音響の力を借りながらとはいえ、ひとりで作品を動かし、観客に届けていくのはどれほどのエネルギーを必要とするのでしょうか。
しかも今回はオリジナル作品で初演。1時間10分ほどに収まると良いなぁと思っていたそうですが、出来上がってみるとひとり芝居としては長めの90分!
注)ここからはネタバレありで書きます!
来月の台湾公演や再演を待ちたい方はここで閉じてくださいね!!
大丈夫ですか??
『懐かしき、未来』というタイトルと佐藤さんのこれまでの出演作から、私はなんとなく勝手にコメディ作品を想像しながら劇場シアター711へ向かったのですが…私の予想と異なり10歳の少年が人生の現実に抗う話でした。
パンフレットのあらすじはこちら。
平均気温が20℃台だった頃の夏のある日。10歳の少年は人生に溺れていた。きっとこのまま人生に沈む事もできた。天草の海で変えられない過去を悔やみ行き着くことの出来ない未来を羨んだ。少年の最後の希望は見ると願いをかなえてくれるというピンクのイルカを探す事だった。ピンクのイルカを探していると“変な帽子と変なマントを着た変なおっちゃん”が話しかけてきた。おっちゃんは変な事を言い出した。私がピンクのイルカだと…。この物語は時空を飛び越えながら、今を変えようとする少年の夏の大冒険の物語。
舞台は1980年の福岡県大牟田。少年は3年前に父を事故で亡くし、母子の生活は貧しく、学校ではいじめられている。母は夜に仕事をしているものの、パチンコに逃げる日々で、機嫌が悪いと彼を叩き、叩いているうちに自己嫌悪になるのか泣き出す。
そんな暮らしの中でも少年は、毎朝牛乳を一気飲みして登校し、帰りにパチンコ屋に母を迎えに行き、泣きながら布団をかぶる母の背中をさすります。
黒いランドセルを背負い、「母ちゃん!」「大丈夫だよ!」「母ちゃんとの生活は楽しい!」と笑顔でまっすぐ母を見つめる少年。
その瞳の輝きと彼の現実のギャップ、そして子から親への深い愛に、開演早々から感情を揺さぶられました。
ですが、母はそんな少年を捨てて去っていく。
母を追いかけられず膝を抱える少年の横に、変な帽子と変なマントを着たおっちゃんが現れます。そのおっちゃんは少年を、父が事故で亡くなる直前に連れて行ってくれました。
「父ちゃんが死ななけばこんなことにはならなかったはずだ!父ちゃんを救うんだ!」と父を事故から救う計画を立てます。
その変なおっちゃんは未来の少年であり、佐藤さんは十歳の少年と大人になった少年を演じ分け、その二者の視点から物語は進んでゆきました。
見ている者としては、お芝居なんだし最後は父を救える話になるのかと期待していました。ところが芝居でも、過去は変えられなかった。タイムマシンはあるのに、なぜ父ちゃんを救うことはできないのかと憤慨したくなるのですが、未来はこれから変えられても過去は変えられないのですね。。。
結局少年は、四度も父の死を経験します。
父の死は変えられなかったけれど、少年は少しずつ変化していきました。最後はもう父を救おうと過去には向かわず、母に自分の思いを言葉にして叫び、見送ります。
このお芝居を「少年の成長物語」とか「過去は変えられないが未来は変えられる」とか言い表すこともできなくはないと思う。でもそれをするとこの作品の多くを取りこぼす。
最後の暗転からカーテンコールの地明かりが点くと、あの少年はもうおらず、全てを出し切り疲労困憊の佐藤さんが立っていました。
満面の笑顔で大牟田弁でしゃべり倒し、駆け回っていた少年とは、舞台上のあの90分でしか会えないのだと気づきました。
少年との出会い、そしてひとり芝居をやり切った佐藤正和さんとの出会い、こふたりと会えたことは私のこの夏の大切な思い出になりました。
そんな出会いを求めて、また下北沢の劇場に行ってしまうのだろうな。なんで自分がこんなに劇場に通ってしまうのか、ちょっとわかった気がします。
上杉惠理子