徒然日記 〜日々出会う本や映画〜

後悔にこそ眠る人間らしさ/吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』

こんにちは。上杉惠理子です。

2023年7月末に宮崎駿監督の新作映画『君たちはどう生きるか』を観てきました。

私はすっごくおもしろくて、素晴らしい映画経験になりました!!

…という話をこちらのブログに書いているのでよかったら^^

前情報一切無しで映画を見る貴重な経験/映画『君たちはどう生きるか』 こんにちは。上杉惠理子です。 2023年7月24日、話題の映画を見てきました。 宮崎駿監督の新作『君たちはどう生きるか』 ...


それでですね、映画が楽しすぎたので、関連本ということで吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』を読みました。

2018年にこの漫画版が出て、ものすごく売れましたね。当時、私は本屋さんで漫画版を手に取ったことはあるのですが、あんまり惹かれず…読まずにそのままでした。

今回手に取ったのは、岩波文庫版。しかもダブルカバー!!

これがめちゃくちゃおもしろい!!!

こんなにおもしろい本だったんだ!!と感動しながら読みました…!!

どんな内容かというと、主人公のコペル君(本名は本田潤一君)は、お父さんを早くに亡くしてはいますが、比較的裕福な家庭のひとり息子。

近所に住むお母さんの実の弟である おじさんに、学校や友達とのことを話し、おじさんがノートにコペル君への手紙を書いて応えるというのが基本構成。

この本が世に出たのは1937年、日本が戦争に突き進んでいく時代。80年前に書かれたもので古典の部類に入る本ですが、全体として語り口が柔らかく、とても読みやすいのも意外でした。

ちょっとした挿絵がかわいい^^

コペル君の気づきや、友人たちとのやりとりもおもしろいのですが、ノートに書かれたおじさんのコペル君への手紙がすごくいい。。!!

15才というコペル君の年齢に配慮しながらも、子ども扱いせず社会や人間について情熱を込めて、真正面から語り、問いかけるのです。

君も、もうそろそろ、世の中や人間の一生について、ときどき本気になって考えるようになった。だから、僕も、そういう事柄については、もう冗談半分でなしに、まじめに君に話した方がいいと思う。こういうことについて、立派な考えをもたずに、立派な人間になることはできないのだから。

二 勇ましき友 より)

もしも君が、学校でこう教えられ、世間でもそれが立派なこととして通っているからといって、ただそれだけで、いわれたとおりに行動し、教えられたとおりに生きてゆこうとするならば、 コペル君、いいか  それじゃあ、君はいつまでたっても一人前の人間になれないんだ。

きちんと知恵を授けながら、自分の考えを押し付けるわけではない。同時にコペル君を尊重しながら、「立派な人間になってほしい」という熱い想いはストレートに伝える。

15才をとっくに過ぎた私も、おじさんの言葉を素直に、真剣に受け止められるのは、愛にあふれた文章だからこそかもしれません。


一番印象的だったのが「6章 雪の日の出来事」

コペル君と仲の良い北見君が上級生から目をつけられ、雪の積もった校庭で殴られるという事件が起きます。

コペル君たちは以前からその噂を知っていて、もしその状況になったら北見君と一緒に殴られようと、仲間の浦川君と水谷君と指切りして約束していました。

ですが実際にそのことが起きたとき、コペル君はひとり足がすくみ、ひとり少し離れたところから傍観してしまうのです。

3人が身体を支え合って校舎に戻る後ろ姿を見て、コペル君はあんなに約束したのに取り返しのつかないことをしたと後悔して後悔して、寝込みます。

私はコペル君を弱虫だと思わないし、卑怯なのは何よりも上級生だと思うのですが、コペル君の後悔の念は痛いくらいわかる、、、!!

さらにお話では、コペル君のお母さんが、布団に伏せっているコペル君に、自分が子供の頃に経験した後悔の出来事を丁寧に話してくれます。

コペル君の後悔と、お母さんの後悔の経験。読みながら自分のこれまでの人生で起きた、後悔の記憶とあのヒリヒリ感ががっつり呼び起こされました。

痛い、痛い、、痛すぎる。。。

読者の心をここまで揺らせるのもすごい。

そして、この事件を聞いてのおじさんの言葉が印象的です。

コペル君、自分が過っていた場合にそれを男らしく認め、そのために苦しむということは、それこそ天地の間で、ただ人間だけが出来ることなんだよ。

七 石段の思い出より

後悔しているということは、本来何をすべきだったのかを知っている、ということ。そして、本当は自分はそのように行動することもできたと、自分の可能性を知っているからじゃないか、とおじさんは語るのです。

自分を悔やむことで感じる苦痛こそ、人間だけが感じる人間らしい苦痛なのではと。

「後悔しない人生を送ろう」とかよく聞きますし、そりゃ後悔は少ない方がいいなとは思う。だけど、後悔が全くなかったら、それは人間らしい人生なのだろうか。

そして、後悔した出来事は、大切な人生の経験にできるよという問いとエールをもらいました。

6章の後悔のお話以外にも、貧富と人間の価値を考える「4章 貧しき友」、英雄とは何かを問う「5章 ナポレオンと四人の少年」などもとてもとても大切な文章でした。

しかも読者が何歳であっても、読者の中に眠る「子ども」を呼び起こして、直接語りかけてくれる。 

『君たちはどう生きるか』のタイトル通り壮大なテーマを、子どもたちの身近なエピソードから紡ぎ始め、一部の大人の考えを教えようとはせず、本当に問いかけることに成功している貴重な本でした。


この本は、1937年の発刊です。

日本が戦争へと突き進む寸前、自由な言論が難しくなっていた時代に、それでも若い世代に「人間とは何か」「どう生きるか」を伝えたいと、社会派小説家 山本有三氏が企画した『日本小国民文庫』の一つでした。

著者の吉野源三郎さんはもともと、この文庫の編集者さんだったそうです。

山本氏が重い目の病気で執筆ができなくなったため、代わりに吉野さんが書くことになっちゃったんですって!!

結果、吉野さんの処女作にしてヒット作になり、そして宮崎駿監督をはじめ多くの人に影響を与えてきました。

なんだかそれもすごいドラマを感じます。

また一冊、とても大切な本と出会いました^^ 最近、こういう良い出会いが多くて嬉しいです❤︎

上杉惠理子


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