こんにちは。上杉惠理子です。
2022年6月15日。日比谷のシアタークリエに、ミュージカル「クロスロード」を観てきました。
これをお読みのあなたはミュージカルをご覧になりますか?
私は各所で書いている通り、タカラジェンヌだった従姉妹の影響もあり小学生の頃からミュージカルを見ていて、好きすぎて高校時代には宝塚を受験したほど。
宝塚受験の話は、こちらの「寄り道」サイトのコラムに書いています。
https://yorimichi365.com/column/eriko01/
今は趣味としても踊っていなくて、観る専門です♪
日本発新作ミュージカル クロスロード
さて、ミュージカル クロスロード
まずはストーリーをご紹介します。
皆さん、こんな噂を聞いたことはありませんか?
街外れの十字路には音楽の悪魔が棲む・・・
その悪魔は才能を与えてくれる・・・
世界中が虜になる音楽の才能を・・・
19世紀はまさに音楽に魅了された時代だった。
数多の音楽家が誕生し
人々はその才能を愛で
その美しい調べに酔いしれ
音楽が世界を支配したその時代に
突如として音楽史に登場し
音楽の世界を支配した漆黒のヴァイオリニストがいた
ニコロ・パガニーニ
彼には常にある噂がつきまとった。悪魔と契約し、魂と引き換えに音楽を手に入れた・・・・と。
クロスロード公式HPより https://www.tohostage.com/crossroad/
街外れの十字路で
悪魔アムドゥスキアスと血の契約を結んだ彼は
100万曲の名曲の演奏と引き換えに、
命をすり減らしてゆく事になる。
19世紀ヨーロッパの華麗なる音楽黄金期を舞台に
音楽を司る悪魔と
悪魔のヴァイリニストと呼ばれた男が奏でるメロディーは
ヨーロッパを そして世界を熱狂させてゆく・・・
このニコロ・パガニーニは実在のヴァイオリニストで、庶民から王族まで国を超えてヨーロッパ中を魅了しながら、その誰も見たことがない奏法に演奏中に十字を切る人がいたり、亡くなったあとの棺を教会が受け入れを拒否したとか。
数々の逸話がある人だそうで、彼をモチーフにしたミュージカルです。
ミュージカルって、NYやロンドンなど海外ものを輸入し翻訳するものが多いのですが、「クロスロード」は日本の完全オリジナル作品で、しかも今回が初演。前情報ほぼなし!
私がこの作品のことを知ったのは、最近大好きなミュージカル俳優のおひとり、中川晃教さんがラジオで話していたことでした。
中川さんはこの「クロスロード」で主演のパガニーニに才能を授ける悪魔 アムドゥスキアス役。
中川さんがラジオ番組で
「クロスロード」は初めての作品だし、音楽もミュージカル初の方が作っていて今までにない感じだし、自分の役は悪魔だし、どんな作品になるのか試行錯誤です…
と話していらっしゃったんですね。
素晴らしい歌唱力で、20年ミュージカルの主演をされている中川アッキーさんが、試行錯誤ってどういうこと??と俄然興味が湧きました。
新作ミュージカルを観る経験も貴重なので、ぜひ観たいと思ったのでした^^
実は観劇後、ミュージカル界の友達にこの作品の話をしたら、彼女もクロスロードのオーディションを受けたそうで「意味不明な楽譜だ」と思ったそう!!!
せっかく見るなら前のお席が取れる日を…と探したら6月15日の昼公演だったのでした。
中央ではないけれど、3列目!
神様!アッキー様!素晴らしいお席をありがとうございます!!
音楽を最優先で楽しむなら、両スピーカーからバランスよく音が入ってくるので少し後ろでも中央が良いのだと思います。
私は役者さんの存在感や表情を近くで感じたいので、多少はじっこでも前を選ぶタイプです。
今回はこのお席で最高でした!!
悪魔の誘いは意外と身近!?皆の心に問いかける作品
前置きが長くなりましたが…
めちゃくちゃよかった…!!!
2幕目始まってからずっと泣きながら見てたーーー
一曲一曲終わるたびに観客の皆さんと拍手して、最後のカーテンコールはスタンディングオベーション。
ミュージカルって、歌や踊り、舞台美術を駆使した圧倒的なパワーで、現実離れした世界へ連れていってくれることがあって、終演後には現実世界に戻るために調整が必要なときがあるの。
昨日はまさにそれ。
終わって帰り道も、気を抜くとうるうる、ふらふら放心状態で帰りました。
いろいろ話したいことはあるのだけど、まずはメインテーマの人生の十字路のことを。
ジェノバの貧しい家庭に生まれたニコロは幼い頃からヴァイオリンの才能を発揮します。母は彼を誇りに思い、必死でヴァイオリンのレッスン代を稼ぎます。
ですが、才能があることと天才であることは違う。
才能があるからこそ、自分の才能がないことがわかる。
才能があるからこそ、他にも才能あるヴァイオリニストがいることがわかる。
心には素晴らしいメロディがあるのに、弾ける技術が自分にはない。
限界を感じながらも、母や周囲の期待を思うとやめるわけにもいかない。
右に進むべきか、左に進むべきか、過去は暗く、未来は怖い
そんな十字路に立ち止まってしまったニコロの前に、音楽を司る悪魔 アムドゥスキアスが現れ、最高の音楽の才能を授けようと提案します。
音楽の才能を授けるための条件はふたつだけ。
✔︎ 全ての曲を、悪魔アムドゥスキアスのために弾くこと
✔︎ その最高のメロディーは、100万曲演奏できること
ニコロはこの血の契約を結ぶことを選択します。
この条件が実は、予想外に大きなことだった…!
すぐにニコロの演奏の素晴らしさは評判を呼び、名声と多額の報酬を手に入れます。
ですが、悪魔は教会で弾くことを許さないので、教会に演奏依頼があっても断るしかなく、ニコロは故郷でどんどん孤立し居られなくなります。
悪魔と契約したヴァイオリニストと噂され、街を歩くとトマトや卵を投げつけられることも。
大好きな母のために弾くことも許されません。
そして延々ありそうだった100万曲は確実に減っていきます。
残りの曲数が減るにつれて、ニコロの体調は悪くなっていくのです。
ヴァイオリンを教えて欲しいとやってきたジプシーの少女アーシャに、ニコロは最後こう言います。
ゆっくりでいい、立ち止まらず、まっすぐ進め と。
才能があることと、ダントツの天才であることは違う。
何が違うって本当は、
測るモノサシが違うだけなのだと思うのです。
天才は人と比べて突出しているか。
才能のあるなしは、これが自分にはあると自分で認めれば良いだけ。
一方で現実社会では、高みを目指していくことも大事だったりする。
どうしても順位づけられる場合もあるし、他人の評価がないと得られないものもある。
クロスロードのお話は、ファンタジーのようで…
現実世界の私たちの周りにも、意外とよく起こっていることじゃないかと。
ニュースになるような大きなところで言えば、大学入試の不正受験とか、国税庁職員の不正受給とか思い出します。
またマーケティング的には、悪魔の提案のような(と書くと誤解を生むかもですが)商品・サービスが存在します。
私も買ったことあります。
「これを買って身につければ、ライバルと圧倒的な差をつけて、お客様から選ばれるようになりますよ」って。
めっちゃ言われてたー!契約してたーーー!!!
人生の十字路で悩み立ち止まり、悪魔にささやかれる瞬間。
私たちはどうしたら、血の契約をせずに乗り越えられるのでしょうか。
うーん、、考えてしまいますが、実はこの作品の中にもそして作品パンフレットの中にもヒントがしっかり入っていました。
悪魔、悪魔と先ほどから書いていますが、中川晃教さん演じる悪魔アムドゥスキアスは、いつも甘い声で歌うように話し、軽やかに登場します。
大好きな中川さん、やっとライブの舞台で最高の歌唱力を堪能しました^^最高!
でも契約には厳しく、ニコロを自分の最高傑作にしたいと執着する姿は、やっぱり悪魔なんだと思い出させる。
悪魔って、、、本当にこういう感じかも。
偉大なお祖父様からのギフト
悪魔のヴァイリニストと呼ばれたニコロ・パガニーニ。実在の彼のエピソードを元に作られた日本発のオリジナルミュージカル クロスロード。
この作品の原作・脚本・演出・作詞をまるっと手掛けたのが、藤沢文翁さんです。
イギリスで演劇を学ばれた後、これまでにも朗読劇などを作ってきて、今回が初のミュージカル。業界では注目の劇作家さんだそうです。
パンフレットに「わたしとミュージカル」という藤沢さんの素敵なエッセイが載っていました。
藤沢さんの舞台との出会いを作ってくれたのは、おじいさまだったそうです。
藤沢さんのおじいさんはなんと!本田技研工業(ホンダ)の創業者のひとり、藤沢武夫氏。
本田宗一郎の名参謀と言われ、本田は藤沢に実印と会社経営の全権を委ね、自らは技術者に徹していた。
Wikipediaより
すごいお祖父様だったのですね…!!!
すごい方でしたが、藤沢文翁さんにとっては「僕が生まれたときには、祖父はすでに隠居した趣味人」で「あらゆるアートに精通した仙人のようなお祖父ちゃん」でした。
お孫さんは大勢いたそうですが、「俺と趣味を共有できる奴が現れたぞ」と感じたのか、武夫さんは文翁さんを年齢に関係なく、オペラや歌舞伎などあちらこちらの観劇に連れまわし、遠慮なく感想を聞きまくり、いろんな知識を授けてくれたそうです。
そして昭和63年のクリスマス、武夫さんはふたりで行こうとオペラのチケットをプレゼントしてくれました。
が… 年が明ける前に武夫さんは亡くなります。
大きなお葬式の後、文翁さんはその2枚のチケットを持ってひとりで劇場に行き、初めて泣くことができた、とエッセイで書いていらっしゃいます。
このエッセイを私は第一部が終わった後、休憩時間に読みまして。
2幕目のオープニング曲を聴きながら、泣いたーーーーー
そのまま泣き続けながら2幕を見た感じです^^
何にあんなに泣いたんだろと思い出すと
この作品が、こうした形で出来上がるには、藤沢文翁さんお一人のお力でポンっと出来上がるものではないんだとわかったから。
文翁さんご自身のこれまでの作品やロンドンでのご経験はもちろんのこと
お祖父様 武夫さんの存在があって
武夫さんが魅せられた歌舞伎やオペラの歴史があって
文翁さんがこの世に生まれる前からのいろいろな流れがあって
たくさんの人が関わって作ってきたものがあって
そして、それぞれに素晴らしい経験・技術を積み重ねてきたスタッフ・キャストが集まって
その流れでの生まれた今回の クロスロード。
私自身もタカラジェンヌの従姉妹がいたからミュージカルを観るベースがあり
ワーグナーをはじめクラシック音楽マニアだった父の存在があり
自分でも舞台に立ちたいと試行錯誤した経験があり
…いろいろな流れであの日、シアタークリエに導かれた。
今この瞬間が生まれるまでの 背景をブワッと感じたときが、涙腺が崩壊したときだったのだと思います。
いつもついつい忘れちゃう。
自分がここにいること、誰かと出会っていること、今この仕事ができること。
どれも目に見える人からも、目に見えない世界からも、たくさんのギフトを贈られてきたからこそなのだ。
自分でがんばってきた部分ももちろんあるけど、それってあんまり大きくない。
人生の十字路で悩み立ち止まり、悪魔にささやかれる瞬間。
私たちはどうしたら、血の契約をせずに乗り越えられるのでしょうか。
クロスロードの作品からのこの問いかけに、ひとつの答えを出すなら、
今の自分を自分だけの力だと思わないこと
そして自分ひとりでがんばらないこと
ひとりではなく、誰かとともに、もうひとつ別の高みを目指すこと
…かなぁ〜と思う。
我が強くて目立ちたがりの私には、なかなか↑難題なんですけど^^; シアタークリエで感じたあの体感を忘れずに持っていたいと思っています。
本当に素晴らしい舞台でした!!
この初演を観劇できたこと、とてもとても幸せに思います^^
6/24追記 マチネ上演中止で気づく舞台の奇跡
ミュージカル クロスロード。
ハマりすぎて、大好きすぎて、でも新作で初演でyoutubeもCDも何もない。やっぱりもう一回観たい、あの歌をもう一度聴きたいという思いを抑えきれず。
別のキャストさんが出るときで、前回とは違う少し後ろの正面席の空席を見つけて予約。
ドキドキしながら再び6月24日、もう一度日比谷のシアタークリエに行ってきました。
前回よりも早く劇場に着いて席でしばらくゆっくり。(前回は汗だくで到着。笑)
前回とは見える景色が違って、2回目の観劇でどう感じるのだろうとドキドキ。
幕が開くのをいまかいまか…
異変に気づいたのは、幕が開く少し前。
前回は3列目でしたが、今回は少し後ろの12列目。
12列目でも、幕の向こうの舞台から泣き声が聞こえる。
大丈夫?大丈夫… という別の人の声も聞こえる。
これは…大丈夫か??と手を握り締めて待っていたところ、少し間があって、幕が上がりました。
オープニングのお芝居があって、中川晃教さんがソロで歌って(素晴らしかった!!!)
このままいけるかなと思ったところで
幕が閉じました。
客席が少し明るくなり
「現在舞台中で少しトラブルがあります。しばらくお待ちください」
というようなアナウンスがあり、客席の皆じっと待つ。
10分?20分?
どれくらい待ったでしょうか。
短かったような、あっという間だったような。
じっと待って、客席がさらに明るくなり、幕の中央の間からスーツ姿の男性が。
シアタークリエの支配人の方が出てみえました。
ご自身のお肩書きとお名前を名乗ったあと
「出演者の中に体調不良者が出たため、本日の公演は中止とさせていただきます」
とおっしゃって、本当に申し訳ありません、チケット代はこのあとご返金の手続きをHP等でご連絡いたします、と何度も頭を下げられました。
「クロスロードは初演のミュージカルで、私たちもなんとかがんばりたいと思っています。お客様のお力添えをどうぞお願いいたします」
ということもおっしゃっていました。
私たちは、客席みんなで拍手。
コロナ対策で客席にいる者は、劇場ではしゃべらない、気持ちは全て拍手に乗せるしかない数年を過ごしているので。
ただただ頭を下げる総支配人さんに、そして幕後ろのキャスト・スタッフの皆さんに、ただただ拍手。
コロナ対策の密対策で一列ずつ、順に劇場を後にしたのでした。
お客様の中には、この日を本当に楽しみにいらした人も多かったのでしょう。
泣きながら帰られた方、泣きすぎて席を立てなかった方もいらっしゃいました。
私は、そうしたいろいろを見ながら、前回とは全く違った意味でふらふらぼぉっとしながら帰ってきました。
私もこれまでいろいろと舞台を見てきましたが、幕が開いての今回のような中断は初めてでした。
上演中に地震が起こることもあるし、舞台装置の事故もゼロではないので、舞台の中断ということはもちろんありえます。
舞台は、なまもの。
それが最大の魅力です。
体調不良になったのはアーシャ役 乃木坂46メンバーの早川聖来さんと、公式にお名前が出ているので書くと。
最初の15日に見た時の彼女はとってもとっても素敵でした^^
踊りでも歌でも芝居でも、彼女の明るさが、暗くなりがちなこの作品に確かな光を灯し続けていました。
昨日一番最初に登場したのは彼女で、前回と違って泣いているような感情的だなとは思いましたが、そういう演出かなと。
最初のシーンはやり切って、次の中川アッキーさんのソロ歌のシーンにつなげていました。
泣きながら舞台に立とうとしていた。
とぼとぼふらふら帰りながら
舞台は、本当に奇跡の瞬間なんだと思いました。
どれだけの人が、どれだけのプレッシャーの中で、どれだけ自分の状態を高めてこの瞬間を迎えているのか。
この瞬間、スタッフ・キャストの皆さんが最高の状態でパフォーマンスし、地震も火事も起きずに、最高の2〜3時間を見れることがどれだけすごいことなのか。
とぼとぼ帰りながら、これまで見た、全ての舞台に、ただただ感謝するしかなかった。
ふらふら帰りながら思い出したのが、ビジネス講座で参考文献として紹介したこの本でした。
『世界は贈与でできている』近松悠太著(News Pics Publishing/2020年3月)
この中に、「二つのつりあい」という話が出てきます。
目の前でふたつの黒いボールが静止しています。
どちらも安定していて、動かない。
ですが、この黒いボールを支える台座は透明で見えない。
この台座はどんな形でしょうか??
物理学では、つりあっている状態は二つしかないそうです。
くぼみの底に置かれたボールと、おかの頂上に置かれたボール。
どちらも安定して見えるけれど、全然違う。
私たちは普段、自分の世界を、安定の生活を、くぼみの底に置かれたボールのように思っていないだろうか。
電車が時間通り動くこと、スーパーにいつもの商品があること、舞台が予定通り上演されること。
当たり前だと思っていないだろうか。
何かトラブルがあっても、時間が経てばまた戻ると思っていないだろうか。
本当は私たちの世界はそもそも、おかの頂上に置かれたボールでできているんじゃない?
それはつまり、「ボールがずれて落ちそうになった時に、懸命に支えてくれる人がいて、ボールは頂上で在り続ける世界なのでは??」と『世界は贈与でできている』は問いかけます。
そうした懸命に横から支える人は、「私が支えてるんだー!」とは表立って言わない。
『世界は贈与でできている』では、このボールが安定するために密かに支える影の功労者を、Unsang Hero(アンサングヒーロー)「歌わない英雄」と呼んでいます。
私は今回、舞台は、おかの頂上で多くの人が支えているボールなのだと改めて感じました。
役者さんたちが最高のパフォーマンスをするために、どれだけ自分を持っていっているのか。
不安定な丘の頂上にあるために、ご自身でもどれだけの努力をされているのか。
そしてその役者さんたちを支えるアンサングヒーローがどれだけたくさん存在しているのか。
まさに、世界は贈与でできている。
彼女が自身の限界を表現できて本当に良かったと思う。
彼女は今、人生の十字路 クロスロードにいるのかな。
人生の十字路を乗り越える方法は、それこそミュージカルクロスロードが教えてくれました。
ひとりで乗り越えないことだよって。
休演になった二日間ゆっくり休んで、どうかまた6月30日までの千秋楽までの公演に復帰できることを心から願っています。
上杉惠理子
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